細雪
母方の祖父は私が幼い頃に他界し、祖父との思い出は数えるほどしか記憶にありません。
生真面目で曲がったことが大嫌い。
騒がしいのが苦手で、口数は少なく、大広間のテレビの前に座り、いつも静かに野球を見ていた祖父。
煙草の煙がいつも祖父をとりまいていました。
幼かった私は、祖父と会話をあまり交わすことなく、いつも祖父の背中ばかりを見ていた気がします。
でも私は祖父の不器用さの中にある優しさを知っています。
弟が入院し、祖父母の家に預けられていた時のこと。
当時、少しの気温の変化で喘息になってしまう私は、夜中に喘息の発作を起こしました。
いきなり咳き込み、息も絶え絶えになる小さな孫の姿に、祖父母はあわてて救急車を呼び、救急病院へ連れて行ってくれました。
私を抱きかかえてくれた祖父の険しく泣き出しそうな表情と大きな手がずっと心の中にあって、時々ふと思い出します。
祖父が愛読していた谷崎潤一郎の【細雪】
関西に住む元上流家庭の四姉妹。
四姉妹それぞれの個性、四姉妹を取り囲む環境を、四季の移り変わりとともに美しく描いた作品です。
私の母の名前はこの本にでてくる主人公の四姉妹の四女から名づけられたと聞きました。
読む前にふと祖父の事を思い出し、読み終えてまた祖父のことを思い出します。
写真に写る姿と数少ない記憶だけが、祖父が私に残してくれた思い出です。
そしてこの【細雪】も。
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